前野が赤ら顔で答えた。
涼は残りの焼酎を飲み干すと、ウィスキーをロックで注文した。グラス一杯3千5百円もする、25年前のものである。
「個人情報だ。相手を騙すには相手を知ることが重要だ。相手を熟知したうえで会話をすることによって、そいつの心を操れる。だから、現在俺の世界は何よりも個人情報を欲している。その宝庫が携帯電話だ」
「これがかあ?」
前野は買い替えたばかりの折り畳み式携帯電話を開いた。
待受画面には、人気急沸騰中のアイドル“アマ”がマイクを握って微笑んでいる。
ふと、以前無くした携帯の待受画面にしていたアマの方が良かったなと思った。
「電話帳には、持ち主の知人の電話番号が登録してある。メールの送受信を見れば、そこから人間関係も分かる。見る奴が見れば騙せそうな人間をチョイスするのは簡単だな。あとは本人に成り済まして携帯を使用するか、解約されたら情報だけを利用、転売するかだ。特に金持ちは平和ボケしている。だから、落とし主と親とのコミュニケーションを把握したうえで何らかのアクションを起こせば、簡単に大金をせしめれる」
「闇金もいろんな事してるんだな。新規ビジネスを手掛けないと生き残れないのはどこの業界も一緒か……で、小遣い稼ぎというのは?」
前野は携帯を閉じて涼の横顔を見た。
「他人の携帯電話を俺に渡して欲しい」
「それって……俺に泥棒をしろってことか?」
前野の声が甲高くなった。