『私はこの携帯電話の持ち主です。どこかで落としてしまったようです。拾ってこのメールを見た方は、至急返信をお願い致します』


 本文を見て、前野は瞳孔を開いた。鏡を見たら、先程驚愕したホーホケキョウのような表情になっていたであろう。

(アマからだ! ……でも、どうする?)

 送信元のアドレスは英数字が混合しているが、@以下が大手プロバイダ名だった。
 恐らくアマがパソコンから送っているのだろう。

(メールのやりとりをしたとして、彼女に携帯を返すだけで終わりだろう。これを機になんとか知り合いになりたいけど、トップアイドルが一介の学生なんか相手にするわけないし……だからって、涼に売っても額はしれてる)

 様々な考えが交錯する。返信をためらうもキーを叩いた。

『初めまして。僕はあなたの携帯電話を拾った者です。早めにお返ししたいと思っています』


 前野は携帯を返すことに決めた。
 額が安値という理由も否めないが、涼に渡ってアマが不幸になるのは避けたかった。

 ファンの心理とは不思議なものだ。
 見ず知らずの一般人が詐欺にあっても自業自得だと突き放せるが、アマは例外である。

 メールを送信した後も携帯画面を凝視し続ける。
 
 待ち遠しい返信が間もなく届いた。


『どなたか存じませんが、ありがとうございます。とても大事な物だったので、無くしたら大変でした。早速返して欲しいのですが、受け渡し場所、時間はどうしましょうか?』


(アマが直接取りに来る可能性は低い。超一級アイドルが一般人に接することは事務所が許さないだろう。たぶん、マネージャーかスタッフが代理で来るんだろうな)


『僕は暇な学生なんで、そちらの都合に合わせますよ』