「もしもし」

「もうすぐ駅に着きます」
と、電話の相手が言った。

「ええ、分かったわ」

マチは、ほんの3秒のやりとりで電話を切ると、すぐさまダイニングに戻った。

「今日のコーヒーはおいしいわよ。口当たりが良くてすごく芳醇な香りの豆。福ちゃんが薦めてくれたの」

マチはコーヒーをカップに注いでテーブルに置いた。
アマが立ち昇る湯気をジッと見つめている。

「ねえ、マチ……今日はどこで仕事があるの?」

「ええっとね、新宿第三スタ」

「何の仕事? 時間掛かるの?」

「う、うん……作家さんとトークの打ち合わせって聞いたけど、よく分かんない。帰りは遅くなりそうだけど……」

「なんか怪しいなあ。本当に仕事なの?」

「ええ、よくある打ち合わせよ……アマの方こそやけに探ってくるじゃない。何か予定あるの?」

マチは懸命に平素を装っていた。
今バレると、これまでの計画が水の泡だ。
心臓の音がアマまで聞こえていないか不安になった。